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「難しい……と言いますと?」
隆一は隣に座る瀧の表情を窺う。
「そのこだわりが文章そのものに留まらない。載せる雑誌から本の体裁まで、結構こだわる男なんだ。口うるさいとか声がでかいとかじゃないんだが、なんというかこう、若いくせに眉間のしわひとつでだな……」
言いかけて、瀧はごほんと咳払いした。
「いや、話がずれた。ともかく、今度他社から出る夏目の短編集は、箱付きのずいぶん豪華なものだそうだ。題字は彼の敬愛する書家が書いているとかで」
「なるほど、それで瀧さんは……」
「夏目の次の作品集を、うちで出したいと思っている。そのために、何人かの挿絵画家の絵を彼に見せているんだ」
何人かの……つまり隆一には、ライバルが幾人もいるらしい。その中から選ばれるのは簡単なことではないだろう。だがそんな難しい男相手でなければ、瀧も挿絵作家に手当たり次第声をかける必要はなかっただろうし、隆一に声がかかることもなかったはずだ。そう考えると、夏目のこだわりがありがたい。
隆一は夏目に絵を見せる瞬間を思い描き、密かに武者震いをする。持参してきた自信作を、無意識のうちに強く抱いていた。
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