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男は黙って、隆一の顔を見ていた。
隆一より幾分背の高い彼は、涼やかな目元をこちらに向けている。広い額は知的な雰囲気を漂わせ、やや上がった口角が顔全体に引き締まった印象を与えていた。
口元に添えられた手の指が長い。
隆一は息を呑み、男の顔を見つめた。
「あの……お通しいただくことは難しいでしょうか?」
緊張感のある沈黙に耐えかね、恐る恐る聞いてみる。
「いや」
男は短く言ってから、小さく笑った。
「上がってください、僕が夏目龍之介です」
「えっ」
今の値踏みするような視線の意味を知り、思わず声が出た。
けれどこの男が夏目龍之介だと言われれば、納得がいく。彼の文章からほとばしるものと同じ鋭気が、この男の目にも見てとれた。
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