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【第三章:風の狩場とカルマの谷 三】
集落を取り囲む木の柵は、近づいてみると思いのほか大きなものだった。
一本一本が巨大な丸太の組み合わせで出来ており、幹そのままの箇所もあれば、幾何学模様で何かのモチーフが彫り込まれ、青・赤・白・黒の四色で色が塗られている箇所もある。
最上部は荒削りながら杭のように尖っており、その先は無理やり折り曲げられたフォークのように、集落の外側に向かって突き出している。
遠目からは年月を経た王冠のようにも見えたその柵は、下から見上げればより厳めしくこちらに迫り、お前に中に入る価値はあるのかと訪問者を値踏みしているかのようだった。
「こういう風に防護柵が外側に傾斜してるとね、岩イノシシがジャンプして入って来られないんだって。
もっとも、ここまで来る動物たちは滅多にいないらしいけどね。
ま、もしもの時の備えってやつだね」
ギンコの説明と同時に、柵と同じく巨木で出来た門がゆっくりと開いた。
扉はやはり幾何学模様に派手に彩色され、門の上では翼を拡げたグリフォンの木像が天を仰いでいる。
「グリフォンは空の者でもあり、大地の者でもある。
魔獣の中でも龍族の次に高く飛べて、天と地のメッセージの橋渡しをしてくれるとも言われているんだ。
……それに何より狩りが上手い。
隣り合う魔獣の世界への畏敬の念と、魔獣よけみたいな、両方の意味を持ってるモチーフなんだよ」
にっこりと笑うギンコにスズは頷いた。
どれも初めて見る物のはずなのだが、どこか懐かしい感じもする。
そういう物なのだと、何故だかすんなりと腑に落ちた。
門の両脇には、白く細長い柱のような、巨大な石像が一本ずつ立っていた。
施された彫刻は、かなりデフォルメされてはいるが、右は龍で、左は虎のようだ。
おそらくはこの世界の神であるフィルコとミオなのだろう。
その両目には深い青緑色をしたターコイズのような石、そして口には濃い紅色の珊瑚のような石がはめ込まれている。
地球でいう、インディアンのトーテムポールのようだと、スズは思う。
よく見れば柵や扉に幾何学的に描かれた模様や色の組み合わせも、洋服や雑貨などで見たことのある、アメリカやカナダのインディアンアートに良く似ているのだと、今更ながらに気がついた。
不思議な懐かしさを感じたのはそのためかもしれない。
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