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【第三章:風の狩場とカルマの谷 四】
いや、ミノムシというよりは蛾だろうか。
灰色とオレンジがかった薄茶色のモコモコした横幅の広い……というか全体的に『丸い』と形容しても良いような毛皮の持ち主が、その上さらにカラフルで太く長い毛糸の束をいくつも垂らしたような、妙にバサバサした衣服を身につけている。
それだけでも充分動きにくそうなのだが、その胸の辺りには、風雷石をはじめ何やらジャラジャラした石や紐で出来た、大ぶりのアクセサリーをいくつも重ねづけまでしていた。
ネコ科と言えばネコ科の人物なのだろうが、耳は小さく、目の下から伸びる長い隈取や、灰地に黒くポツポツとした頭の斑点も、どこか木の皮のようでもあり、そういうわけでスズの目には、カラフルな毛糸で衣を作った、丸々と太ったミノムシに見えた。
「私の太陽……私の血……!!」
両手を広げ、やや芝居がかった声音でそう言いながら、その男性はシルフのメンバーを見回しながら円を描くように横歩きしている。
どうやらその腕に抱きしめる対象を探しているようだ。
長い袖をひるがえすその姿は、やっぱり蛾に近いかな、とスズは思い直す。
しばらく皆の周りをウロウロした後、思い人がいなかったのか、ガックリと肩を落とした。
そしてしばらくしてからふと顔を上げた時に、仮面の中のスズと目が合った。
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