【第三章:風の狩場とカルマの谷 六】

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「さて、みんなも知ってのとおり、この詩はこの世界の成り立ちを表しておるのだがね」  おもむろにカラフルでバサバサとした服の袖口から、直径三センチほどの黒い石のような球体を取り出した。  そして左手で高く掲げ持つと、こう続けた。 「我々の暮らすこの星、この星もやはり丸い、石のような物で出来ている。  我々からすると、とても大きい物ではあるがね。  だがこの広い宇宙全体から見れば、大きさはあまり関係がない。  この星も、我々の一人一人も、宇宙の大きさと比べれば、目にも見えない小さな小さな、たった一つの針の先程の点の上に集まっているようなものなのだよ。  そんな我々が乗った小さな星が、環の運動をしてこう、太陽の周りを動いておるのだね。  実は我々の体や動物たち、この自然、石や木も皆、よ~く、よく見てみれば、やはりとてもとても小さな、丸い石のようなもので出来ている。  そしてその周りを回る、環の運動を示す、やはり丸いものがある。  それらが集まって、我らをそれぞれ形作っているのだよ。  小さすぎて、我らの目には普通は見えないがね。  この世界にあるものは皆、とてもよく似ておるのだよ。  ただそれぞれ、環の運動の大きさや速さが違うだけでな。  さて、もし、この石が、宇宙いっぱいにぎゅうぎゅうに詰まっていたらどうだろう?  さよう、それではただの固まり、どこまでも固であるこの世界は闇でしかなく、我らの存在する隙間もない。  逆に、この石同士が宇宙全体に果てしなく離れていたらどうだろう?  さよう、それではただの虚空、空だけではこの世界のどこにも誰も存在など出来ない。  天がなければ地にあらず、また地がなければ天にあらず。  そこに天と地があるからこそ、我らはこうしてその間に立つ事が出来る。  また、光と闇も同じ。  永遠に白く光輝く世界ならば、我らは眩しさに目が眩み、それが美しいとも気が付けまい。  永遠に闇の世界なら、我らは暗黒以外の何も見ることはない。  美しさとは何かも知ることはないだろう。  そう、光の美しさとは、闇の美しさそのものなのだ」  マヌルは一際高く、丸い石を天に向かって掲げると、薪の炎に向かってそれを投げ入れた。
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