【第三章:風の狩場とカルマの谷 一】

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「いーじゃないか! 『ヤマトナデシコ』万歳!!  ボクは黒髪の女性、神秘的で大好きデース!!」  ギンコがなぜかカタコトで叫んだ。 「黒髪はともかくとして、残念ながら『大和撫子』は絶滅危惧種だと思います」  スズは誰にも聞こえない小さな声で突っ込んだ。 「……欲張りなのよ。黒は全部の光を吸収しちゃうんだもの」  フーカが呆れた様につぶやいた。 「そうそう。全部の色を持ってるのと同じ、ってことでもあるとボクは思うけどね」  ハンモックから降り、ギンコも笑った。 「そうかなぁ……」  そう言われると、ちょっとお得というか、誇らしい気もしなくもない。  スズはごつごつした感触の白い袋を頭から降ろして、中から掌程の大きさの赤黒く光る宝石を一つ取り出した。  キアスはそれをスズの手の上で器用に噛み砕き、飲み込んだ。  これは『山雷石』という、食物の栄養を蓄える食べられる石に、『魔石』という魔力を蓄える事のできる石が加えられた物で、『魔頤丸(マイガン)』という。  魔獣は日常的に魔力を得られないと弱ってしまうので、日々の食物である動植物などの餌に加えて、飼い主が魔力をサプリメントのように与える事が必要なのだそうだ。  これをマルコは『(かて)』と呼んでいる。  ちなみにダンテやキアスが身に着けている宝石も魔石で、これにもマルコの魔力が込められている。 「それに、ミオ様もよく黒猫に化けて、こっそり地上を見廻っているとも言うぞ」  マルコが重ねていた餌箱を縁台に並べると、それを合図にしたように木陰から様々な色をした美しい鳥たちが次々に姿を現した。 「黒は、強大な魔力を秘めた色とも言えるのではないか」 「黒猫に……」  スズは自分がこちらの世界に来る前に黒猫を見た事を思い出しかけた。  だがその思考を遮るように、ブラッドの美しい声が拡声器で車内に響き渡った。 「丘の上で一度停車するよ。念のため何かに捕まるなり、各自気を付けて」
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