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【第三章:風の狩場とカルマの谷 二】
広大な白い岩の峡谷に囲まれた大森林がそこにはあった。
見渡す限り拡がる渓谷の山々は、白からクリーム色、そして茶色と、異なった色彩の層がいくつも重なりあった巨岩でできていた。
(まるで自分が、プールいっぱいのバニラチョコアイスの中に放り込まれたアリになったみたいだ)とスズは思う。
時折、イチゴクリームが挟まれたような、ピンクから赤色の層も見える。
スズはほんの少し、地球のアイスクリームが恋しくなった。
ネコタミのデザートは乳製品を基本とした、素朴でコクのある良質の物ではあるのだが、地球で食べていたようなチョコレートや砂糖のように強い甘みは感じられないものがほとんどだったからだ。
その一方で、野菜や果物、穀物など、食物その物の栄養価と糖度は高く、そのままでも美味な物が多いため、特に甘党でもないスズにとっては、今のところ大きな問題ではなかったが。
そんな巨大なバニラチョコアイスのような岩山は、膨大な量のブロッコリーを抱えている。
高低差によってその種類は別れてはいるが、様々な気候帯の様々な植物でできた、太古から続く深い原生林の森だ。
それがブロッコリー程度の大きさに見える事から、自分たちがいる場所がかなり高い場所なのだと解る。
その渓谷と大森林を隔てるように、いくつかの大きな川が流れていた。
水はエメラルドのような淡い緑色で、場所によって澄んだり濁ったりしている。
森の中から川を渡るように鳥たちが飛び立った。
「ここが『風の狩場』だよ」
ギンコが両手をいっぱいに広げながら言う。
「風と水が大地を溶かして、この星が、数えきれない程の永い時をかけて作り出した場所」
彼に導かれ、スズはハチワレ・ブラック号の屋上のさらに上、シルクハット部分の展望台のような場所に昇っていた。
停車した場所は、この渓谷でも最も高いと言える丘の上だった。
その丘の遥か下にも大きな川が流れている。
渓流から吹き付ける強い風が、ギンコの長い髪を躍らせていた。
「それでこの渓谷全体が『カルマの谷』。
こっちで獲った獲物はだいたいみんな、ここから川に流して船で運ぶんだよ」
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