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「……ええと。
その危険な魔獣っていうのは、こっちの方まで飛んで来たりはしないんですか?」
スズが階下の屋上庭園の方を気にしながら言う。
噴水付近では魔獣使いのマルコとフーカに見守られながら、羽狼の魔獣キアスと、ヤタガラスのダンテが派手にじゃれ合って、というか罵り合っている。
「魔獣と言うのは、魔力の多い場所でないと長く生きられませんからね」
これには運転席から展望台まで昇ってきたブラッドが答えた。
今日はトレードマークのシルクハットは被っておらず、襟部分にカラフルな刺繍のある、黒を基調とした着物のような服を着ている。
「ちょうどあの山脈の向こう側が魔力の強い地域になっているんですが……。
そうですね、例えるなら魔力は塩分。
淡水と海水の違いのような物と考えていただけると解りやすいと思います。
海で生きる魚が淡水では生きられないように、魔力の少ない場所では弱ってしまうのが魔獣なんです。
キアスやダンテのように特殊な方法で摂取していない場合は、わざわざこちら側に来ることはまずないでしょうね」
「じゃあ逆に、オレたちが魔力の強い場所に行った場合はどうなるんですか?」
スズが尋ねた。
「私やマルコの様に、生まれつき体から発する魔力が強いタイプは別だと思いますが、基本的には淡水魚が海水で暮らせないのと同じように、長く生きることは出来ないはずです」
ブラッドが少し困ったように笑った。
「ブラッドたちは鮭みたいなものだよね。たぶんどっちの世界でも生きられる」
ギンコが茶化した。
「体質的には問題なくても、生き抜ける自信はないですね。
何せあちらは龍族の世界ですし、こちらよりずっと過酷な環境ですから」
遠く山脈の向こうを眺めてブラッドが言う。
それでも言葉とは裏腹に、どこか挑戦的な表情だ。
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