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人はたびたび人を殺す。それは、前世でその人間に殺されたからだ。自分のやった悪行は自分に返ってくるように出来ている。通り魔に刺されることにもすべて意味がある。理由のない殺人など存在しない。前世で受けた恨みを現世で晴らしているのだ。無意識のうちに「仕返し」を達成している。それが因果応報というものなのだ。
前世は当然、忘れているべきもの。しかし、まれに覚えている人間がいたら?
それが私だ。
覚えているというより、思い出したのだ。ある日突然、忘れ物を届けられたように頭の中に記憶が戻ってきた。普通に、道を歩いているときだった。私はその場で気を失った。
夢を見ているようだった。長い夢だった。
夢から醒めると私は慟哭した。私は前世、殺された。ある男に。
その男は現世に転生している。
今思えば、私たちは何かの力によって引き合わされたのだろう。
出会った頃のことを思い出す。見た瞬間にあっと思った。向こうも、何か感じたらしい。
君とはどこかであっている気がするんだ。
それはナンパの文句のつもりだったのかもしれないが、彼が感じた率直な感想だったのだろう。私はそのときその言葉に共鳴した。絶対にこの人とはどこかで会っている。運命の出会い。そんな言葉を当てはめて私たちは恋に落ちた。
そして結婚した。幸せだった。
今、私の隣で寝息を立てている男。私の夫。その夫こそ、前世で私を殺した男だった。
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