第一話

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 八月に入ったばかりのある日の夕方、剣上(けんじょう)が帰って来るなり、友一(ゆういち)に言った。 「友、花火大会に行かないか?」 「わ。行きたいっ。行く! 先生、いつ? いつ連れてってくれるのっ?」  夏休みに入ってから、友一はほとんど毎日のように剣上のマンションへ来ている。  だが、四十日もの夏休みがある友一とは違い、教師は夏休みでもほぼ毎日学校へ行かなければいけないので忙しく、なかなか遊びには行けないのだ。 「今日、これから」 「え? これから?」  またずいぶん急な話だ。  友一が呆気にとられた表情をしていたのだろう、剣上は苦笑している。 「急な話で悪い。ギリギリまで今日残業が入るかどうか、分からなかったからさ」  剣上は某私立高校の教師で、友一は彼のクラスの生徒である。そしてプライベートでは二人は恋人関係にあった。  勿論、担任教師と男子生徒が恋仲だなどとばれたら、大変なことなので、誰にも秘密の関係だ。  二人が恋人関係になったきっかけは、一部のクラスメートからひどい嫌がらせをうけていた友一を剣上が救ってくれたことだった。  剣上も友一もお互いが運命の相手だと確信している。だから男同士に加え、教師と生徒で愛し合っているということにも罪悪感はない。  二十九歳と十七歳……今は大きい年の差も、月日を重ねるごとに気にならないものになるだろう。 「これから出かけるんじゃ億劫か? 友」 「ううん。そんなことない。行きたいよ! どこの花火大会? 近く……じゃないよね、さすがに」  近場だと知り合いにばったり会う可能性が高い。 「ちょっと遠いかな。それほど大きな規模の花火大会じゃないみたいだけど、人があまり多すぎるのは二人とも苦手だからちょうどいいだろ。……じゃ、早速出かけようか?」 「うん。車?」 「ああ。今日はまだ飲んでないからな」 「オーケー」  友一は心も足取りも弾ませて、座っていたソファから立ち上がった。  
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