第一話

5/10
139人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
 ひっ……、せ、先生……。  隣の剣上に助けを求めたかったが、恐怖とおぞましさで、声は喉に詰まったようになり、体は凍り付いたように動いてくれない。  友一が抵抗しないせいか、手はだんだん大胆になっていく。友一の薄手のハーフパンツの上から双丘を揉んでくる。  やだ……、助けて! 先生っ……!  心の中で叫びながら、友一が剣上の手を強く握った次の瞬間、不快な手は離れ、男の悲鳴があがった。 「……ってぇ……やめ……折れ、折れるっ……!」  見ると剣上が男の手をひねりあげている。痴漢の存在に気づき、助けてくれたのだ。  剣上はすさまじい怒りのオーラを発しながら、冷たい声で痴漢の中年男を恫喝した。 「オレのものに触りやがって……!」  剣上はもともと冷たく見えるタイプの美形である。怒れば、その迫力たるや半端ない。  このままだと痴漢男の腕を本当に折ってしまうだろう。 「せ、先生、もういいよ。ね、ほら、みんな見てるから」  友一は必死に彼をとめた。  事実、周囲の人たちは何事かと好奇の目を、友一たちに向け始めている。  剣上は舌打ちすると乱暴に男の手を離した。  痴漢男は慌てふためいて、人混みをかき分け逃げて行った。 「友、ここから離れよう」  剣上は友一の手を再び強く握ると、人の波に逆らうようにしてその場を離れた。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!