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いつの間にか車は人通りのまったくない道を走っていた。
周りにあるのは寂れた駐輪場と、シャッターが下りたなにかの工場だけ。街灯の光も弱く、物寂しい。
「先生、ここどこ? なんかちょっと怖いんだけど……雰囲気が」
友一は幽霊とかホラー系は大の苦手である。
「オレがいるだろ?」
剣上はそう言うと、いきなり友一が座っているリクライニングシートを倒した。
「わっ」
突然のことに友一は驚いた。
「せっ、先生!?」
思わず声が上擦ってしまったのは、エッチな想像をしてしまったせいだ。
も、もしかして、カーセックスするの?
まだ二人は車の中でのセックスの経験はない。
友一がドキドキしていると、剣上がクスと小さく笑い声を漏らした。
「友、おまえ、なに考えてるんだ?」
「な、な、なにって……」
車で二人きりで、このシチュエーションっていえば、考えられるのは――。
そのとき、ドンという音が遠くのほうで聞こえた。
あれ? この音って……。
「ほら、友、見てみろ」
そう言って剣上はフロントガラスの向こうへ視線を移す。友一もまた彼の視線を追った。
すると遠くのほうの空で、花火が上がったのが見えた。
「ちょっと遠いけど、ここからならよく見えるだろ? 花火。二人だけの特等席だ」
剣上の言葉に被さるように、夜空に花が咲く。
「本当、よく見える。すっごい綺麗……! ねー、先生……」
友一が手を伸ばすと、彼はその手を握り返してくれた。
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