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第5話 『行商のおばちゃん』
那智勝浦町昔懐かし話
第5話 『行商のおばちゃん』
「なんぞや、かんぞや、いらんかいのし~。」チリン、チリン。
今日も行商のおばちゃんは、ほっかむりをし、もんぺと長靴を履き大きな呼び鈴を付けたリヤカーに平天とかの天ぷらやコロッケ、アジとかの小魚、イラギ(さめ)の干物なんかを氷の入った木の箱にきれいに並べてやってきた。標準語に略すと「なんでもありますよ。なにか買ってくれませんか。」となるだろうか。おばちゃんは、僕ら小学生から言うたらおばあちゃんの年やった。勝浦小学校の下に魚屋を構えていたが、それを息子夫婦にまかし、いつも勝浦町内(1区から6区)まで廻っていた。「おばちゃん、イワシあるかん。」「ああ、あるで。今日のは、脂のっててうまいで。まぐろの刺身はいらんかん。」「そうやのぉ、もろとこかいな。」お得意さんとのいつもの会話だ。がに股歩きのおばちゃんは、歩くのがあまり早くない。だから町内廻るのに朝出ても店に帰ってくるのは夕方近くになる。でもおばちゃんの長年のファンは町内に多く、店に帰ってくる時は、いくつかの木箱は、ほとんどからっぽになっている。おばちゃんは、若いときから早朝魚市場へ出向きその日の魚を仕入れていた。
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