パピコを買いに走る

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「え? 聞こえなかったけど」と、言おうと思って、やめた。ぼくは「やりすごす」ということに関して、とにもかくにも慣れていないのだ。 「あー…そうだったかもね」 「こういうのから聞こえる自分の声って、自分の声に思えないもんねえ」  そう言うと、女の子は動画を停止してスマホをしまった。  ふたり一致で「ブナン」採点した動画をこれ以上見る必要はないと判断したのだろう。  そしてふたたびぼくらはアイスをのぞきこんだ。 「あたし、ピノにする。成神くんは?」 「ああ、ぼくはいいよ。アイスって、そんなに食べないんだ」 「えー! 夏になるとテニス部みんな食べてるじゃん!」  よくわからないけど怒られてる感じがして、若干あせりながら自分の中のアイス愛をふたたび検索する。 「ああ、アレ! パピコは食べてたよ!」  そう言うと、女の子は愛犬に「ヨシ」と言うようなやさしい顔をした。 「たしかに、ここにはパピコないね」  よくわからないけど、なんとか無罪放免らしい。  肩から力をぬくと、女の子はピノを持ってレジに向かっていくところだった。  その後ろ姿にパピコの()が重なって、さらに一足遅れて、「検索結果 パピコ もっと見る>」という表示が重なる。  ヒマなときのネットサーフィン中みたいに、ほとんど何も考えず「もっと見る>」を選択する。  すると、急に大音量で耳の奥に自分の声が響いた。それは、さっきの動画からつかまえた声だった。 『――――先輩!』
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