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「そういえばさあ、さっきの動画で『先輩』って言ってたけど、誰のこと?」
「あの動画を撮影する前に引退した先輩のことだよ。男の」
「へ~。っていうか、あれって夏休み中に撮ったの?」
「うん」
「男の」と付け加えたとたん、女の子の声が軽くなった。予想通り、一言二言交わすと、すぐ別の話題になった。
あのとき、練習が一段落ついて、コートの端で水分補給をしていたぼくは、ほとんど必然といっていいほどの精度で、そのひとを見つけた。
受験対策の講習に参加したあとだったのだろう。門に向かって歩いていたそのひとを、ぼくは呼んだ。心が前のめりになっていたせいで、名前を加えるのを忘れていた。でもそのひとは、すぐに自分を呼んでいるのだと気づいてくれた。ほんの少し笑って、手をふり、口が「がんばれよー」と動いた。
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