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先輩とテニスをやっていたとき、ぼくはいつも休み時間に抜け出してパピコを買ってきた。
『おまえ、ほんとにそればっかだな』
『ほかのアイスはあんまり食べないんですけど、これだけは好きなんです。でもまあ、全部は食べられないんで…』
『はいはい。一本イタダキマス。
毎回思うんだけどさ、俺ここで、感謝すればいいの? 憤慨すればいいの?』
からかうように、そう言って受け取ってくれた。左腕よりほんの少し長い、右腕。長い長い時間を、テニスと過ごしてきたひとの腕。
そんなとき、ぼくの喉は決まって熱くて、パピコはそれを冷やしてくれた。
どうして、いつもパピコだったのか。
どうして、灼熱の中全力で走ってまで、買いに行っていたのか。
もともと自分に頓着しない質だったから、今まで考えたこともなかった。
あのときの、言葉にできない―――ゆえに言うこともできなかった―――もの。
それが、初めて、わかった。
あの声が。
あの声におさまらずに、女の子の耳にまで届いて警戒させてしまったほどの、
「きらめき」という、恥ずかしい言葉しか思いつかない、はじけるような高揚が。
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