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「じいさんや。もう。また寝てしまって……」
窓からは橙色の日が差し込んでいた。風もやや涼しくなり、秋の匂いがし始めていた。
「話の途中で寝てしまうのは、じいさんの悪い癖だねえ」
「……ばあさんの話が長いからじゃよ」
じいさんは目をうっすらと開けて、湯飲みに手を伸ばした。
「だから携帯を折って壊した」
「そんな時もあったわねえ。
ええっと、それは就職して遠距離恋愛になった時だったかねえ」
「六時間も喧嘩するなんて、わしとばあさんぐらいじゃよ」
じいさんは苦虫を噛み潰したようにいい、ばあさんはコロコロと笑った。
「若かったのよ」
ずずずと湯呑みをすする音が重なる。
「お互い年をとったわね」
「それでもばあさんの話好きは変わらんよ」
「そしてじいさんは聞き役ね。
でも、夢は叶ったわ。年取ったら、結婚した男性と昔話をしながらお茶を飲む」
「そんな小さな夢だったのかい?」
じいさんが意外そうにばあさんを見た。
「小さくなんかないわよ。
だから私は今が一番幸せよ」
「……それはわしも同感じゃ」
二人は顔を見合わせて微笑むと、また湯呑みをすすった。
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