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第四章 就職2
帝都無線で働くようになり、僕は昼ごはんを紀伊国屋書店の周りで食べるようになった。各担当部門で1人ずつ時間差で昼ごはんに行くのだが、僕はベテランの木下さんと一緒に行くことが多かった。木下さんは、レコード部門で、池田店長より2歳年下。他の店員よりベテランで、背が小さくネズミみたいな顔をしていたので、皆から、ちゅうさんと呼ばれていた。僕も皆と同じように、いつからかちゅうさんと呼ぶようになった。ちゅうさんには、子供がなく奥さんと2人暮らしで、音楽いや、レコードで音楽を聴くのが大好きで帝都無線に20年前に入ったのだと言っていた。ちゅうさんは、48歳だった。その日の昼ごはんの順番は前もって勤務表でわかる。ちゅうさんは、良く僕を誘ってくれた。「吉村君飯いくか」そう言って僕らは紀伊国屋書店の地下1階にあるカポネという洋食屋によく行った。ここのジャーマンスパゲティというメニューが僕は大好物だった。スバゲティの上にハンバーグが乗っている。それに野菜サラダがついていてそれに掛けるスパイスもこの店オリジナルで、絶品だった。このカポネを教えてくれたのも、ちゅうさんだった。店に入るとマスターは、僕らの顔を見ると「いつもでいいかな」と言って大盛りにしてくれ、そしてコーヒーをサービスしてくれた。最近東京へ出張があり仕事終わりにカポネに行ってみた。約25年ぶりだったが、カポネは今も営業していて僕はジャーマンスバゲティを食べた。あの時の味そのままだった。僕と、ちゅうさんは、カポネ以外にも新宿西口ガード下あたりにも良く食べに行った。西口ガード下あたりには。中古カメラを扱う店が何軒もあり、またガード下には、あやしいけど、うまく安い料理を提供する店が多くあった。そい丼という大豆を炊いてそれにカレー味のミートソースみたいなのをかけた丼があり、それもうまかった。なにせ、めちゃくちゅ安い。ガード下には、ちゅうさん、ごひいきの中華料理屋があり、店は外も中も油でほべたべたで、カウンターしかなく、10人くらい入るといっぱいになるという中国人の兄弟がやっている店があった。「よう、ちゅうさんいらっしゃい。おにいさんもいらっしゃい、何するね。」初めて行った時そう声をかけられた。
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