目覚まし

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目覚まし

 目覚ましが鳴っている。  夕べ、セットしたっけ?  寝起きはいい方だ。だからいつもの起床時間でいいなら、目覚ましなんてなくても余裕で起きられる。  なのに、夕べの俺は目覚ましをわざわざセットしたらしい。  早起きしなきゃならないような予定なんてあったっけ?  考えるが、音がうるさくて集中できない。だから目覚ましを止めたのだが、すかさず二個目が鳴り出した。  二つ目もあったとは。用意周到だな、夕べの俺。ますます早起きの理由が知りたくなった。  とりあえず、考え事は静かになってからと、二つ目の目覚ましを止める。途端に三つ目が鳴り出した。  その後も、止めても止めても次の目覚ましが間髪入れずに鳴り出して、絶えず音が響きっぱなしの状態だ。  だからこそ、逆に冷静になることができた。  さすがに、一人暮らしの男の家にこんなに大量の目覚ましがあるなんて、おかしいだろ。そこから思考を広げればすぐに答えは出てくる。  これは夢だ。…そう、俺は夢を見ているのだ。  でも、夢の中でまで目覚ましが鳴り続けるってことは、多分現実世界で、どうしても起きなきゃならないことがあるって意味だよな?  そんな重大な用事があったかな…ま、起きれば総てが判るだろう。  起きろ! 俺!  ……… ……… ……… …?  殺風景な色合いの天井が見えた。そこに人の姿が入り込む。服装からして…看護士?  それが、目覚めてすぐに俺が考えたことだった。  後になって判ったことだが、俺は交通事故に遭い、生死の淵を彷徨っていたらしい。つまり、目覚め=生還で、目覚ましは俺自身が発していた警鐘だったって訳だ。  この話を聞いた時、人間の生命力って凄いモンだなと、俺は深く感心した。  そんな事故の記憶がすっかり過去になった頃。  響き渡る目覚ましの音で俺は目を覚ました。セットしてたか? と思いつつ止めると、別の目覚ましが鳴り始める。  もしやこれは…。  まさか、生存本能がこうまで警鐘を鳴らすレベルの事故にまた遭うとは。俺ってつくづく運がない奴なんだな。でも生命力は凄いらしく、夢の中の目覚ましという形で自分を覚醒させようともがいている。  本当に、人間て凄いな。そう改めて感心しながら、俺は自分自身に叱咤と激励の混ざる叫びをぶつけた。  死にたくなければ起きろ! 俺! 目覚まし…完
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