プロローグ

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『ヴゥゥゥ~~~~~-- - - - - … …』 この無機質で騒がしい世界全体に、怖気の走る様な甲高いサイレンが鳴り響く。街の喧騒は、サイレンと同じタイミングでピークを迎え、人々は『蜘蛛の子を散らす』という言葉通りに散開した。 地下鉄の駅に向かう者。地上の路線に乗る為に列に並ぶ者。東西南北それぞれに人の海を作り出し、移動する者。 人々はこのサイレンが聞こえた瞬間、帰宅を始める。寸分の時間の狂いも無く。一斉に。 サイレンの鳴る前までは生き生きとした眼をしていた者も、この音を聞いた直後に眼は色を失い、誰に与えられたかも分からない使命感によって、大半の者は操られた様に自宅へと戻るのである。 街から人々が居なくなったとしても、光は消えることはない。街には警備員らしき武装をした者達が徘徊し、この世界を様々な場所から監視する。例え街に人が残っているのならば、それが例え女子供、赤子であったとしても。 『排除』する。 「…ホント、権力を手にすると、人ってのはバカになるよな。」 巨大な摩天楼の内の一つ。その屋上らしき場所から空を照らす街を眺める赤髪の青年が小声で呟く。高く聳える場所に吹く風の音は、その発言を消し掛けた。 その青年にはどういう訳かサイレンが効いていない様だった。
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