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挨拶もそこそこに編集室を出て駅に向かうと、タイミングよく来たばかりの電車に乗り込めた。
予測よりも大分早く家につき、着替えるついでにさっとシャワーを浴びる余裕も出来たくらい。
汗もモヤモヤも洗い流し、心機一転と言わんばかりに待ち合わせの場所へと向かったものの
「・・・用事って何だったんだよ」
「え?」
「なんかすげえ乱れてねえ?」
逆方向の電車がこんなに混んでるとは思わなかった。
再び駅まで小走りに向かったところですし詰め状態の中で揺られ、ぐったりしたまま現れた私を湯下さんがポカンと見つめている。
曖昧に濁して居酒屋のドアを開けると、待ち構えていたらしい店員さんが笑顔で寄ってくる。
平日だけあって店内は空いていて、通された部屋の両隣にはまだ誰もいなかった。
「お好きなもの頼んでて大丈夫ですよ」
まずは一息つきたい、と上着を脱ぎ肩の荷を下ろしながら声をかける。
しかしメニューを手にした湯下さんは、料理の写真ではなく私の方をじっと見つめていた。
「さっき、その恰好だったっけ?」
辿る視線が、昼間とは違うシャツとスカートに向いてると分かり思わず感心する。
相変わらず、人の変化には鋭いんだ。
髪を切った時、新しいジャケットを着て来た時、最初に気づくのはいつも湯下さんだった。
まあ他の面々が、あえて口には出さない性格の集まりだったのもあるけど・・・
「一旦家にも帰ったので、ついでに着替えちゃいました。あの服クリーニング出したばっかなんで汚したくなかったんですよね」
「ふうん・・・」
あれ、予想した反応と違う。
「俺が前に醤油飛ばしたこと根に持ってんのかよ~」とか言うと思ったのに。
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