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成人向け雑誌に携わらなければ一生縁がなかった『ラブグッズ専門店』という未開の地を訪れた帰り道、私の足取りは行きよりも重くなっていた。
未だに残る胸元のベタツキに加え、歩くという当たり前の動作の度に感じる違和感も歩幅を縮めさせる要因である。
人目をはばかることなく叫べるのなら、声を大にして言いたい。
物凄くショーツを履き替えたいと。
いっそのこと、会員割引を駆使して買ってくればよかったかな。
でも妙なオプションのついた品物だったら困るし・・・
日和くんのあの調子だと、ベスト3に入ってたしっぽ付きとか勧めてきそう。
そもそも領収書に下着代なんて書けないし、と息を吐いて立ち止まると、先を歩いていた東雲さんが足を揃えて振り返った。
「先に行ってて良いですよ、寄り道なんてしないですから」
道中に警察と裁判所がないことを有り難く思えよ。心の中でそう付け加え、先へ行ってもらうように視線で促す。
どうせもう赤の他人くらい距離が離れてるんだから、私のことなど置いてさっさと帰ってくれ。
「でも、皆見てるよ」
「は?」
顎の動きで両側を示されたので、目を向ければ店先に固まっていた町の人々がそそくさと散らばりだした。
不自然な歩き方がバレてしまったのかとヒヤッとするが、チラチラと私たち二人を交互に伺う視線に今度こそ深いため息を吐く。
『喧嘩でもしたんかねえ』
『武将の好みが違ったのかも知れん』
だから、歴史好きカップルの探訪じゃないっての!
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