ブラックオフィスレディ 【R-18】 ep.9-1

6/21
前へ
/21ページ
次へ
予想外のお願いに目を丸くする反面、こういう突拍子もないところがやっぱり湯下さんらしいと少し安心する。 けれど、じっと結ばれた唇と平坦な眉は動くことがなかった。 『いいじゃんかよ~』と子供みたいに眉を下げる湯下さんはどこに行ったんだろう。 「えっと・・・、草野球チームのとこなら慣れてるし取材もしやすいでしょ?それにいつも私がいること忘れて試合に熱中してたじゃないですか」 「・・・・」 「一人で不安なら、圭とか光江さんに頼んで・・・野上さんだって基本暇そうにしてるからついて来てくれると思いますよ」 でもその道中でアンハトのこと語られたら嫌だなあ。 この間もゆきんこルームを見て「俺の目に狂いはなかったな!」とLINEしてきたから、話題の恐怖画像だけ送り返したとこだし。 なんにせよ、悲しくも袂を別れてしまった私が同行するのは無理がある。 「・・・お前じゃないと分かんないし」 「大丈夫ですよ、録音とか応援とか誰でも出来ますって」 あらら、まだ食い下がってくるか。 珍しいな、確かに取材文や記録という面だけで見れば心許ない部分もあるけど、出かけること自体には物おじしない湯下さんなのに。 ホントに熱でもあるんじゃと心配になり一歩踏み出したその時、目の前に何かが振り下ろされた。 「ごめんね。こっちも仕事中なんだ」 同時に慣れたくもない匂いが鼻をかすめ、東雲さんが真後ろにいることが嫌でもわかる。 人の肩に回しても余裕そうな、長い腕が憎い。 ていうか駆け寄ろうとした瞬間に羽交い絞めするなよ、私の方が引き止められてるようで嫌なんですけど。 しかしこの腕がどうあがいてもビクともしないことは知っているので仕方なく、踏み出していた右足をゆっくりと元の位置に戻す。 すると湯下さんが、ちらりと東雲さんに向けて視線を送った。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

243人が本棚に入れています
本棚に追加