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結局その後は無言のまま編集室まで戻り、私が先にドアを開ける。
ちょうど伸びをしている梶浦さんの背中に出迎えられ、お礼代わりのコーヒーを渡した。
梶浦さんしかいない室内は、外のざわめきがはっきり聞こえるくらい静かだ。
「真野さんも外出されたんですか?」
「うん、2人が行った後すぐ、篠崎さんに呼び出されたって」
「ほう・・・」
先日のあの二人の雰囲気を思い出すと、自然に頬が緩んでしまう。
無理難題言いつけられ、戸惑いながらも従う真野さんの姿を浮かべながら席につくと梶浦さんが控えめに身を乗り出してきた。
「どうだった?」
ドキドキしながら聞く、という仕草がピッタリの梶浦さんに苦笑し「勉強にはなりました」と答える。
後半部分はかき消し、お店の印象や日和くんの素晴らしい店員ぶりに驚いたことを話すと、梶浦さんも腕を組んで頷いた。
「あの子はねえ、ほんとに優秀な人材だよ。日和くんに勧められたDVDは全部ツボでさ」
「そ・・そうですか」
その内容までは聞かないでおこう。
何かを振り降ろしたような手つきで、大体見当はついたけど。
「あそこは新作も20%引きだし、ついまとめて買っちゃうんだよねえ」
「え?DVDの方が割引率良いんですか」
会員特典は確か10%引きだったはず。
商品の種類によって違うのか、それとも関係者故の破格値かな?
て、まとめて買うって月にどれだけ新作出てるのか、聞くのも恐ろしい話だなあ。
「年に10万以上買うと特別会員にグレードアップするんだよ」
ここにもいたよ、ご贔屓さんが。
とりあえず西奴さんもそれだけ使い込んでることはわかったところで、これ以上深入りしないでおこうと曖昧に濁す。
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