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「じゃあ……『伯爵さま』と、これからは呼ぶべき?」
「トゥーリ……おまえ、わざと言ってるだろう」
膨れっ面になり、ますます尖ったその可愛らしい唇に、堪え切れず俺はキスをする。
「わかってるよ。あなたはもう俺に、そうやって呼ばれたくはないんでしょ?」
「わかってるなら……!」
言いかける唇を、俺は再びキスで塞いだ。
「だって、そう呼んじゃったら俺の抑えが効かなくなる」
「え……?」
「だから、いつも我慢してたのに……そうやって人のこと煽るんだからなー……」
「何だ、それは……」
「よーするに、俺このまま暴走してもいい? って、訊いてるんだけど?」
実はもう我慢の限界、とニッコリ笑ってみせた俺を、一瞬、呆気にとられたように見下ろして。
次の瞬間には、くしゃっと表情を歪めて苦笑いを浮かべてみせる。
「本当に、おまえはいつもそればっかりだな」
苦笑しながら、俺の耳元に唇を寄せた。
「…でも、私だって今そればかり考えてた」
そして顔を見合わせて、一緒に吹き出す。
まるで子供のジャレ合いの延長のような雰囲気で、自然に唇が重なった。
「隣が私の寝室なのだが……場所を移さないか?」
合間に差し挟まれた言葉に「うん賛成」と返しながらも、それでも俺はキスをやめない。イタズラしてる子供の気分で。
「だから、トゥーリ……!」
困ったような声になりつつも、それでも嫌がっていないことがわかるのが楽しい。
「もう……そんなに“お預け”にされたいのか?」
「それはヤダ」
ようやく俺は唇を離すと、そのままぎゅっと、目の前のその身体を抱きしめた。
伝わってくる熱だけでのぼせそうになる、そのくらい、このひとが愛しくてたまらない。
だから俺は、その耳元に囁いた。火照る吐息に心からの想いをのせて。
「愛してるよ。――レイノルド」
※【Ⅰ章】完結、【Ⅱ章】に続きます。
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