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もともと噂は聞いていた。
近衛騎士団は、男色愛好家の巣窟だ、と―――。
そもそも近衛騎士は、王の親兵であるがゆえ儀仗騎士の役割をも兼ねているため、ある程度の実力さえあれば、家柄問わず見目の良い若者から選ばれるようになっているそうなのだ。
ありとあらゆるタイプの美男子が集められている、というところなれば、必然的に、そういう趣向の人間まで集まっていても不思議ではないだろう。
とはいえ、噂はあくまでも噂だ、と、そう俺は高を括っていた。
最高峰の近衛騎士団だろうが末端の警備兵団だろうが、国家を同じくする軍の一部隊であることに違いはないのだ、隊紀にだってそうそう違いもないはずだ。上に立つ者は、いつの世でも下っ端のやっかみの対象となるものだし、こと近衛は、最高峰とまで謳われる軍の花形、加えて若い隊員が美形ばかり、とくれば、その特殊さばかりが際立ってしまい、そこをやっかみ半分に面白おかしくあれやこれやと想像で言われたことが大きく膨らみ、行き過ぎた噂となったのではないか。
おおかたは、所詮そんなところじゃないのか? と。
しかし入隊三日目にして早や、その認識の甘さを痛感させられるハメと、今こうして、なっている、ワケ、で、あり―――。
「ずいぶんと怖い顔をしているじゃないか」
ようやっと目の前まで辿り着いた俺を見上げ、片端だけ持ち上げた口許でニヤリと、寝台に座った男が笑う。
「貴様のような屈強な男が恥辱と屈辱に苛まれる、そんな様を見ることほど興奮するものはない」
――やることだけじゃなく、言うことまで変態かよ。
気味の悪さのあまり、思わず腕に鳥肌を浮かせた俺のことなど意にもかけない様子のソイツは、まさに獲物を前にした獣のような表情で舌舐めずりをしてみせた。
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