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そこに居合わせたのは偶然だった。
「――ああもう、そんなところで寝てたら風邪ひくでしょうに……」
もはや“定位置”といっても差し支えないだろう執務室の出窓の桟の上、うたた寝している総督を、忘れ物を取りに戻って俺は見つけてしまった。
「転げ落ちて怪我しても知らないですよ」
言っても、目を覚ます気配は全くない。――とことん本気寝だな、これは。
そうなると、無理に起こすのもしのびない。だが、そんな寝るには適さない場所で寝ていたら、いずれ転落するのは目に見えている。
とりあえず近くの長椅子にでも場所を移して寝かせておくのが安全だと考え、俺は総督へと近寄った。
「総督、ちょっと失礼しますよ」
近くからそう囁いてもピクリとも動かない、その身体を抱き上げるべく、隙間から手を差し入れる。
そうして、まずは自分の方へ引き寄せると、そこで総督が「ん…」と小さく声を漏らした。
頭部がカクリと力なく折れ、俺の胸板にぶつかる。
その拍子に、一筋の涙が頬を伝った。
と同時に聞こえてきたのは、切ないくらいに掠れた声。
「―――我が君……」
その意味を……俺は未だ問うことができずにいる―――。
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