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それに、昨日の棄権の件も、提案しているわりにあっさり引き下がった。
しかもテイヒュル自身が審判を申し出た。
クヨウ贔屓に決闘を進めるには好都合だ。
状況証拠から見れば、テイヒュルが黒である事実は高いと言っていいだろう。
しかし、物的証拠は何もない。
この魔人族、アシェラの言葉をそのまま信用するほど、景はお人好しではない。
「もし仮にそうだとしても、僕はあなたの言うことを素直に信じられない。あなたにとって、僕は敵対している種族だ。偽の情報をつかませて、僕とテイヒュルを争わせる算段かもしれないからな」
「それは、確かにそうだけれど。でも、テイヒュル公は私と君を使って、ヴォルフ公とレグルス王を失墜させると言っていたわ。私の言葉が信じられないなら、自分の目で確かめて」
「ヴォルフとレグルス王の失墜? それがテイヒュルの狙いってことか」
「ケイ様……」
ミーナが心配そうに腕にしがみついてくる。
自分の父親の名が出てきたのだから、不安がるのも仕方ないだろう。
「……わかった。この件については、僕が確かめる。それで、最初の質問だが魔人族がどうしてここにいるんだ?」
「父の……、王の側近である者が、人間の国に送り込まれたのだ。父は、人間との戦争を望んでいる……。私は、それを止めたい! そのために、レグルス王の力を借りにこようとしたの」
「その結果が、これ、ということか」
やれやれと、景は肩を上げた。
そこへ、ヴォルフが帰ってきた。
「……おいおい、こりゃどういうことだ?」
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