第1話 異世界召喚はいつも突然だ

7/11
前へ
/301ページ
次へ
莉菜が景の袖を握ってくる。おそらく、アルシュバンの言った異界という言葉のことを言ってるんだろう。アルシュバンの言葉には形容しがたい何かが籠っていた。莉菜が不安がるのも仕方ないだろう。 「異界の何たらの話のこと? そんなことーー」 「大丈夫さ、莉菜。何があっても俺がついている」 問答無用に話しかけてきたのは、一騎だった。 言っている内容が彼氏だが、一騎にとっては、莉菜を安心させるための他愛のない一言に過ぎない。しかし聞いている者たちにとっては、気が気ではない。 莉菜も莉菜で、一騎の発言に戸惑うこともなく、ありがとうと返している辺り、天然なのかもしれない。 「本当に莉菜は優しいな。こんな不真面目な奴に話しかけていて」 「え? 景君は真面目だよ?」 「そうか? 彼が文化祭の準備を手伝っているところを見たことないけどな」 「一騎、言いすぎよ」 そう窘めたのは、春香だった。莉菜もうんうんと頷いている。バツの悪くなった一騎は、波瑠に目線を送った。 「確かに、終夜が手伝ってるとこは見たことねぇな」 今度は、ほらなと一騎が春香を見た。春香は、溜め息を吐くと、 「いいから、静かにしなさい。着いたみたいよ」 春香が目線を前に送った。景がそちらを見ると、何やら立派な扉が開かれている部屋があった。 部屋の中には、大きな円卓が置かれ、椅子と飲み物が用意されていた。     
/301ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5851人が本棚に入れています
本棚に追加