5851人が本棚に入れています
本棚に追加
莉菜が景の袖を握ってくる。おそらく、アルシュバンの言った異界という言葉のことを言ってるんだろう。アルシュバンの言葉には形容しがたい何かが籠っていた。莉菜が不安がるのも仕方ないだろう。
「異界の何たらの話のこと? そんなことーー」
「大丈夫さ、莉菜。何があっても俺がついている」
問答無用に話しかけてきたのは、一騎だった。
言っている内容が彼氏だが、一騎にとっては、莉菜を安心させるための他愛のない一言に過ぎない。しかし聞いている者たちにとっては、気が気ではない。
莉菜も莉菜で、一騎の発言に戸惑うこともなく、ありがとうと返している辺り、天然なのかもしれない。
「本当に莉菜は優しいな。こんな不真面目な奴に話しかけていて」
「え? 景君は真面目だよ?」
「そうか? 彼が文化祭の準備を手伝っているところを見たことないけどな」
「一騎、言いすぎよ」
そう窘めたのは、春香だった。莉菜もうんうんと頷いている。バツの悪くなった一騎は、波瑠に目線を送った。
「確かに、終夜が手伝ってるとこは見たことねぇな」
今度は、ほらなと一騎が春香を見た。春香は、溜め息を吐くと、
「いいから、静かにしなさい。着いたみたいよ」
春香が目線を前に送った。景がそちらを見ると、何やら立派な扉が開かれている部屋があった。
部屋の中には、大きな円卓が置かれ、椅子と飲み物が用意されていた。
最初のコメントを投稿しよう!