3人が本棚に入れています
本棚に追加
………カナカナと蝉が夏の終わりを惜しむように鳴いている。
火葬場の煙突から煙が昇っていく。
煙草をくわえた兄がスマホ片手に火葬場の玄関ホールにいた私のとなりにやって来た。
「ちょっとこんなところで吸わないでよ」
「わぁってるよ。火はついてねぇ」
言い訳がましくそういうと、兄は煙草を胸ポケットに戻し、黒いネクタイを緩める。
「ひぃばあちゃんも真夏に死ぬなよ。暑くてこっちがくたばりそうだ」
上着も脱いで手で扇いでいるがいまいち効果は薄そうだ。
服についた線香の匂いが汗の臭いと一緒に鼻をくすぐる。
「ひぃじいちゃんが迎えに来たのかもよ」
「笑えねぇよ」
認知症になったひぃばあちゃんは、死んだひぃじいちゃんが会いに来た話を何度も聞かせてくれた。
ほんとか嘘かも分からないけど、ずっと会いたかったんだと思う。
「大きな声では言えないけどさ、よかったね。やっとひぃじいちゃんに会えるんだもん」
スマホから顔を上げずに、兄は「そうだな」と呟いた。
小さな従兄弟たちがこちらに向かって走り寄る。
息を切らせて私に飛びついた。
「大きいおばあちゃん、眼鏡のおじさんとお空に飛んでった!」
怖いと言うことを知らない小さな従兄弟は、特別なものを見たと言うことは分かるのか、頬を紅潮させながらそう言った。
祖父の家の仏間に飾られた遺影の1つを思い出した。
「来年は精霊馬を1つ増やさないとね」
「別に必要ないだろ」
ようやくスマホから顔をあげた兄は、空を見上げる。
「おんなじ馬に二人乗りして還ってくるよ」
火葬場の煙突から曾祖母が煙になって、最愛の人がいる空へ昇っていった。
最初のコメントを投稿しよう!