帰還

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………カナカナと蝉が夏の終わりを惜しむように鳴いている。 火葬場の煙突から煙が昇っていく。 煙草をくわえた兄がスマホ片手に火葬場の玄関ホールにいた私のとなりにやって来た。 「ちょっとこんなところで吸わないでよ」 「わぁってるよ。火はついてねぇ」 言い訳がましくそういうと、兄は煙草を胸ポケットに戻し、黒いネクタイを緩める。 「ひぃばあちゃんも真夏に死ぬなよ。暑くてこっちがくたばりそうだ」 上着も脱いで手で扇いでいるがいまいち効果は薄そうだ。 服についた線香の匂いが汗の臭いと一緒に鼻をくすぐる。 「ひぃじいちゃんが迎えに来たのかもよ」 「笑えねぇよ」 認知症になったひぃばあちゃんは、死んだひぃじいちゃんが会いに来た話を何度も聞かせてくれた。 ほんとか嘘かも分からないけど、ずっと会いたかったんだと思う。 「大きな声では言えないけどさ、よかったね。やっとひぃじいちゃんに会えるんだもん」 スマホから顔を上げずに、兄は「そうだな」と呟いた。 小さな従兄弟たちがこちらに向かって走り寄る。 息を切らせて私に飛びついた。 「大きいおばあちゃん、眼鏡のおじさんとお空に飛んでった!」 怖いと言うことを知らない小さな従兄弟は、特別なものを見たと言うことは分かるのか、頬を紅潮させながらそう言った。 祖父の家の仏間に飾られた遺影の1つを思い出した。 「来年は精霊馬を1つ増やさないとね」 「別に必要ないだろ」 ようやくスマホから顔をあげた兄は、空を見上げる。 「おんなじ馬に二人乗りして還ってくるよ」 火葬場の煙突から曾祖母が煙になって、最愛の人がいる空へ昇っていった。
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