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「ひよさんは、奏が好きだったんだよね。俺は奏とはまるっきりタイプが違う。なのに何故好きになってくれたの?」
指に触れていた手を握られた。そのことがひどく嬉しかった。
「ひよさん」
呼びかけに目を向ければ、穏やかな眼差しが日和を見つめている。目が合った途端、ドキッと心臓が音を立てる。何だか恥ずかしくて咄嗟に目を逸らそうとした日和の目に、風太の唇が飛び込んできた。
(・・・あっ)
キスしたいと思った。柔らかくて甘い唇に触れたいと思った。日和は引き寄せられるように唇を寄せる。一瞬だけ触れて、離した。
「ちょっと、ひよさん。それは反則」
風太は日和の目の前で、驚く間も無く目元を赤く染め上げる。口元を手で抑え、睨み付ける目がゆらゆらと揺れていた。
衝動のままにキスをしてしまったが、イヤだっただろうかと、日和は不安になった。
「い、イヤだったか?」
「そんな訳ないでしょ」
速攻で返された言葉にホッと息を吐くも、全く、これだから天然はと、ぶつぶつと呟く風太を見てまたも不安が過ぎる。
違うと否定している割には、怒っているようにも見える風太の様子が気になったのだ。
「怒ってるのか?」
「怒ってるよ」
日和はしゅんと落ち込んだ。
「初めてひよさんにキスして貰ったのに、こんなとこじゃ余韻にも浸れない」
「・・・は?」
「帰るよ」
日和の手を引っ張り立ち上がる。呆然としたままの日和の手を引き、今度は少しだけ歩みを緩めて一緒に歩いた。日和は温もりが伝わる指先を見る。
繋がれた手に、自然と笑みが零れた。
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