逢瀬

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アパートに入り急いでエアコンを付ける。備え付けのエアコンは、形は古いがこの10年、壊れることなく懸命に働いてくれた。 「ひよさん」 買ってきた食材を冷蔵庫に入れていた風太が、部屋の中に入ってくる。 「座って」 テーブル代わりのコタツの前を指差されて、日和は大人しく座った。 「少し話をしようか」 生真面目な顔で言われ、日和は小さく頷いた。 「さっき、どうして俺がひよさんを好きなのかって聞いてたよね?」 「・・・うん」 「それはね、俺にも分からないんだ。ひよさんの、こういう所が好きだってのは、一杯あるけど、それはどうしてって聞かれると、ひよさんを納得させてあげられるような理由を答えられない。さっきのひよさんのようにね」 どうして風太を好きになったのか、日和にもこれがあったからとは、明確に説明は出来なかった。気が付けば囚われていた。 嫌な顔をして拒絶しながらも、強引に近付いて来る風太が嬉しかったのだから、もしかすれば気付かなかっただけで、最初から惹かれていたのかもしれない。 「俺ね、ひよさんの性格をある程度までは把握してるつもり。マイナス思考で、悪いことばかり想像しては、それを頭の中でぐるぐると捏ねくり返すもんだから余計にドツボにハマってしまうこともちゃんと知ってる。不安になるな。俺を信じろって言うのは簡単だけど、言われたひよさんには無理なことも、分かってる」 風太は手を伸ばしテーブルの上で手のひらを上向けた。日和は何だか誘われているような気がして、その手に自分の手を重ねた。ぎゅっと風太が握り返す。それだけのことに心が歓喜で震えた。
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