逢瀬

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「だから、こうやって出来るだけひよさんに触れるようにしてる。遠回しに言っても勘繰られるだけだから、そうならないように気持ちを素直に伝えようと思ってる。でも、それだけじゃ足りないんだってことが、今日分かった」 ビクリと日和は肩を震わせた。さっきの行動を振り返り自己嫌悪に陥る。 自分に自信が持てなくて、八つ当たりのように風太を詰った。挙げ句の果ては落ち込んで、風太に不快な思いをさせたのだ。 「ーー日和!」 ペシリと繋いだ手を叩かれる。強い口調で名前を呼び捨てにされて、日和は思考を中断して窺うように目を向けた。 怒っているのかと思った風太の顔は、ほんの少しだけ困ったように笑っていた。 「黙ったまま考え込まないの。思ってることは全部口にして、聞きたいことがあるなら何でも聞いて。それがどんなことでも構わないから。ひとりで溜め込んで、ぐるぐるだけはしないで」 お願いだからと懇願されて、日和は目を瞬いた。 「不安なのは、ひよさんだけじゃない。そうやってひとりで考え込まれてるのは怖い。最終的に変な結論を出したりするんじゃないかって、不安になる」 「小原、が?」 「当然でしょ?俺だって、ひよさんが大好きなんだよ?ーー俺に対して不安や不満があるなら、さっきみたいにぶつけて。決してひよさんひとりで抱え込まないで。今まで以上に、ひよさんの不安が解消されるように、俺に愛されてるんだって分かって貰えるように頑張るから」 日和は唇を噛んで俯いた。チラリと繋がれてた手を見る。この手の時のように、風太は日和に歩み寄ろうと手を差し伸べて来てくれている。 手をぎゅっと握り返してくれた時、心が震えるほど嬉しかった。今、差し伸べられてる手を掴めば、きっと、抱えている不安はなくなる。 いつもいつも風太に貰ってばかりで、何も返せない自分に落ち込むが、今はそんな場合じゃない。 風太の気持ちに応えなければいけない。風太が差し伸べてくれる手を掴んで、不安になるのだと言ってくれた風太に、本心を打ち明け自らも歩み寄るんだ。 日和は大きく息を吐き出し、顔を上げた。
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