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「まさか、冗談だと思っていたの?」
「え・・・いや、でも・・・」
視線を彷徨わせ、曖昧に誤魔化す日和に、ひどいなあと風太が呟いた。
「ものすごく本気なのに。でも・・・うん、それも今はいいや。徐々に分からせていけばいいだけだものね」
不穏な気配を感じて、オズオズと目を向ければ、ふわりと微笑まれた。
「あとはーー街を歩いていると振り返るだったっけ?ひよさんの気のせいだとは思うけど、気になるんだよね。ーー不安が解消出来るように、俺なりにちょっと考えてみるよ」
自分勝手な怒りをぶつけた自覚はある。でも風太はそれを真剣に捉えて、憂いをなくさせるために、全力を尽くしてくれる。
そのことが、嬉しくもあり、悔しくもあった。
(本当なら、これは僕の役目なのに)
風太を支え守ってやりたい。頼りがいのある男になりたい。そう思うのに、立場はまるっきり逆になっている。
どうすればいいのかすら分からない。でも、僕にも遣れることはあるはずだと、日和は風太へと身を乗り出した。
「小原!僕に何か出来ることはないか?」
「なに、突然どうしたの?」
目を瞬く風太に「僕も小原のために何かしたいんだ」と、決意を込めた目で見つめた。
「言ってくれたら何でもする」
「・・・何でもしてくれるの?」
「ああ、もちろんだ」
「嬉しいな」
何故だか分からないが、笑みを浮かべた風太を見た途端、ゾワリと背筋が震えた。ぶわっと全身が総毛立ち、毛穴から嫌な汗が吹き出した。
ーーーーこのあと直ぐに、その理由が分かった。自分が口に出した言葉を後悔した。
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