逢瀬

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本当は帰ったあと、直ぐにでも押し倒したかったが、不安に揺れる目を見て、欲望をぶつけるより先に、話をしなければいけないと思った。 気が急いて仕方なくとも、日和のペースに合わせなければ、また要らぬことを考えて落ち込むのだろうと、容易に想像が付いた。 冷蔵庫に品物を入れながら、頭を突っ込んで欲情した頭と体をクールダウンしていたことは秘密だ。 自分に自信が持てない日和は、直ぐに悪い方悪い方へと、思考が捕らわれてしまう。抜け道のない輪っかの中でぐるぐると周りながら、勝手な思い込みを、まるで真実かのように脳へと刷り込んでしまう。 適度に吐き出してガス抜きをして貰わないと、いきなり別れ話を切り出しかねない。日和の中ではいくつかの葛藤と、筋道があるのかもしれないが、言われる方は、堪ったもんじゃない。ただでさえ、いつ逃げられるかと、ヒヤヒヤしているのに。 (ひとつでもいいから、自分に自信が持てれば少しは安定すると思うんだが) 今までずっとそうやって生きて来たのに、それをいきなり変えろというのも、難しいだろう。だからひとつでいい。きっかけになる何かがあれば、きっと変われると思うから。 それが、自分との恋愛でなら言うことないのだが、今のところは望みが薄そうだった。 せめて、誰よりも愛されていると信じて貰えると嬉しい。卑屈になる必要などないのだと、分かって貰うにはどうしたらいいのか。 「・・・小原」 心細げな声が風太を呼んだ。風太は思考を中断して、意識を日和へと戻した。
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