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大翔は音を立てないように、ゆっくりとマンションの扉を開く。ガッと途中で遮られて、中を覗き込んだ。ドアに掛けられたチェーンに舌打ちする。
「可愛い息子を閉め出しかよ」
「今度連絡もなく朝帰りしたら、閉め出すと言ったよな」
凄味のある低い声に、大翔はビクリと肩を揺らした。窺うように目を向ければ、妖気さえ漂わせている父親が睨み付けていた。
「こ、これには色々と事情があるんだよ」
「お前のせいで、俺が千尋に嫌味を言われるんだ」
「お、お袋は過保護だよなぁ」
ハハッと乾いた笑い声が虚しい。そろそろチェーンを外して貰いたいのだが、父親はそんな素振りも見せない。
大体、大翔が居た駅周辺は九条組の縄張りだ。飲んでいたBARだって、父親が経営しているのだ。大翔の行動は筒抜けで、事情だって薄々は勘付いているはずだ。
それなのに、父親の態度は素っ気ない。
「あーー、これ、外して貰えませんかねぇ」
「ーー大翔」
父親がにこやかに笑った。途端に華やかな雰囲気が辺りに漂うが、騙されてはいけない。こんな笑顔を向ける時は、ロクでもないことを言う時だ。
「・・・はい」
「10日間の外出禁止と、10日間の奉仕活動。どっちがいい?選ばせてやるよ」
冗談でも、どっちも嫌だとは言い出せなかった。言ったら最後、扉はこのまま閉められるだろう。凄絶なまでに冷たく整った顔立ちのように、目の前の父親はひどく残忍で残酷な部分がある。特に、母親が絡むと容赦がなくなるのだから。
「・・・外出禁止で」
大翔のセリフが意外だったのか、父親は僅かに目を見張ったあと「分かった」そう言って扉を閉める。
そして、大きく扉を開くと「おかえり」と笑みを浮かべた。
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