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「だから、今度でもいい?今度美味しいカレー作ってあげるから」
「・・・今度でいい」
「ありがとう、ひよさん。他に食べたい物は?」
「任せる」
「んーーじゃあ、昼間はサンドウィッチにして、夜はーー」
「夜ごはんも?」
日和が風太の声を遮って勢い良く訊ねれば、風太は不機嫌な顔をして日和を睨め付けた。
「なに?もしかして、帰れって追い返すつもりだったの?」
「ち、違う」
日和は慌てたように首を振る。
「じゃあ、何で?」
「・・・か、帰るのかと思ったから」
小さく呟き俯いた。平日は学校があるから朝だけだったし、日和が休みの日は、学校帰りに寄ってくれてはいたが、風太は夕方過ぎには自分の家に帰ってしまっていた。
だから、今日も期待しないように諦めていたのだ。
「補習終わったって言ったでしょ?」
「・・・うん」
「俺、今日は泊まるつもりで来たんだけど、迷惑だった?」
「迷惑なんかじゃない!」
日和は顔を上げ、風太の腕を掴む。
「・・・と、泊まっていって欲しい」
顔を赤くしながら願いを口にすれば、風太が「嬉しいな」と、ニコリと笑った。
「ひよさんの口から泊まっていって欲しいなんて言って貰っちゃった」
語尾にハートマークが付いてそうなくらい、浮かれた調子で風太は言うと日和の手を掴み、そのまま歩き出す。
「こ、小原、店内」
いくら朝早くとも、客が全く居ない訳じゃない。いつも手を繋いで通りを歩いているのだから今更なのに、密閉された空間だと妙に人の目が気に掛かり居た堪れない。
コンプレックスの塊でもある日和には、人にどう見られているのか、そのことばかりが気になってしまう。
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