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「ひよさん、お待たせ」
風太はエコバッグを肩に担ぎ、飲食スペースに戻って来ると「帰ろ」そう言って日和を促した。
必ず手を繋ぎたがる風太なのに、二人の間には微妙な距離がある。
差し伸べてくれないことを寂しがるのは間違っていると思うのに、触れてくれない温もりが恋しくて、あんなことを言わなければ良かったと後悔した。
店を出ても風太はそのまま足早に歩いて行く。足の長さの違いから、日和はどんどん引き離されて行った。必死になって追いつこうとするのに、風太には決して追い付けない。遠ざかる背中を見ながら、いつしか日和は足を止めていた。
どうしてと、思う。いつもなら振り向いてくれていた。日和の足並みに合わせて歩いてくれていた。手を繋ぎ、どうでもいいようなことを話しながら歩いていた。それがーーー。
「・・・風太」
小さな声で名を呼んだ。聞こえるはずもなく、振り返らない背中がどんどん遠くなっていく。
走ればいいのかもしれない。大きく呼びかければ、或いは風太も気付き、戻って来るかもしれない。
でも、戻って来なかったら?走っても走っても追いつかなかったら?
そしたら自分は、どうなってしまうのだろう。
うっと呻きを上げて日和は蹲った。嫌な予感しかしない。どうして風太の手を拒んだりしたりしたのだろう。どうしてあんなことを言ってしまったのだろう。
どうして、どうして、その言葉ばかりが頭の中をグルグルと巡って行った。
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