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主を失くして灯の消えたような王宮で、だが、それでも次の主を迎えるべく、次第に色々なものが動き始めていった。
しかし私は、その場所に居られなかった。
――義母が亡くなったのだ。
陛下の葬送行列を一目なりとも見送ろうと、家人が少し目を離した隙に、義母は部屋の窓から飛び降りたのだ。
大した高さではなかったが、打ちどころが悪く、そのまま帰らぬ人となった。
その葬儀のためもあって、陛下の葬儀が終わるや、私は自分の屋敷に引き籠った。
葬儀が終わっても、服喪を理由に王宮へ上がることを避けた。
そして、新たな国王の誕生も、その報せを、私は自分の屋敷で聞いていた。
戴冠された王太子殿下が、ルディウス八世の御名を襲名し、新たな国王として即位された―――。
輝かしくも始まった新たな御代、もはやそこに私の居場所など無かった。
王宮は、既に新王を中心として回り始めている。
このまま誰からも忘れ去られてゆくのも悪くは無い、と思った。
義母を喪った今、もうこの子爵家を護ってゆく必要も無い。
天国で、義母はハルトと会えただろうか。――おまえは約束を守ったと、だからもういいよと、ハルトは私に言ってくれるだろうか。
こんな腑抜けた私のことを陛下は、仕方ないと、笑って許してくださるだろうか。
この国に、この広い屋敷に、たった一人で取り残されて……もう生きていくことが嫌になった。
このまま誰からも忘れ去られてゆければ、それ以上のことは望まない。
だから、放っておいて欲しかった。
私が死ぬまで放っておいてくれさえしたら、それでよかったのに―――。
王宮を辞してから一月あまり経った頃。
私の屋敷までアレクが尋ねてきた。――新王陛下の使者として。
そして彼は、新王の命令を私に告げた。
それは、王宮への召喚命令だった。
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