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    *  港町マルナラ――大陸最南端部、二つの半島に囲まれた湾を臨むようにして、その街は在った。  湾の向こうに見えるのは、有名なカンザリア要塞島。  カンザリアと本土とを繋ぐ中継港としても、この街は重要な意味を持っていた。  しかし、港を中心とした賑やかな繁華区域を逸れると、マルナラはまた別の顔を見せる。  美しい海と、そこに浮かぶ幾つもの島々を臨むことの出来るその地は、素晴らしい景勝地としても有名であり、この地に別荘を建てる貴族が後を絶たなかった。  そのため、今や貴族のための保養地としても有名となっている。  その別荘地の一角に、いま私は立っていた。  この地に自分の別荘など持ってはいなかったが、貴族向けの宿泊施設が、この一帯にはゴマンとある。  そのうちの一つ、別荘風に造られた小宅を借り切って、私は一人、その露台で手摺に凭れかかり、夕暮れ色に染まる海の青を、ただぼんやりと眺めていた。 「――レイ」  海に落ちてゆく夕日が、その残光で周辺の空を鮮やかな紫色に染めていた頃。  そんな声に視線を向けると、露台の下方、坂の小道に立って私を見上げているシャルハの姿が目に映った。  夕焼けの残滓が、彼の金色の髪にきらきらと纏わり付いていて、それがとても美しく……とても目に、痛かった―――。
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