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「レイノルド・サイラーク。――君に、カンザリア要塞島総督の任を命ずる」
屋敷に引き籠る私を、わざわざ王宮まで呼び出して何を言うかと思えば……ただの左遷命令だった。
カンザリア要塞島。――その名は、武官でない私でさえ知っている。
おそらくは、この国の誰もが知っているだろう。
それは、大陸最南端の国境の要衝。島そのものが丸ごと一大軍事拠点として設えられた、最大級の規模を誇る要塞。
対ユリサナの防衛拠点の最前線として、古くから難攻不落の名を恣にしてきた。
しかし、我が国とユリサナとの間に国家間同盟が結ばれた現在、形ばかりの要塞となって過去の栄光を伝えているのみ。
付いた呼び名が、『軍人の墓場』。
戦乱の無い前線施設は、今や体のいい左遷先として使われていた。
カンザリア要塞島総督の役職は特に、高官に用意された体の良い左遷先の代名詞だった。
そんなもの、書面で伝えてくれば済むことなのに。
その顔に貼り付けた笑顔を見れば、そうまでして傷心の私を甚振りたかったのだと、すぐにわかる。
わざわざ王宮へ呼び出して、しかし公的な謁見の間ではなく、よりにもよって私室に通して、満面の笑みで馴れ馴れしく、それを告げる。
――性懲りも無く……まだ私に恋愛ごっこを仕掛けるつもりなのか?
呆れて物が言えない表情は押し隠し、「行ってくれるだろう?」と続けられた言葉に対しては、私は曖昧な笑みだけを浮かべてみせる。
そうして充分にタメを置いてから、おもむろにゆっくりと口を開いた。
「陛下の御命令ならば、喜んで」
「君なら、そう言ってくれると思っていたよ」
いつか交わしたことのあるやりとり。
――だから、きっとこれにも裏がある。
そこで、新王陛下がスッと片手を上げて合図を送る。と同時に、側に控えていた陛下の側近や侍従たち、全てが扉の向こうへと消えた。――どうやら人払いの合図だったらしい。
その場に残ったのは、陛下と私、そしてアレクの三人のみだった。
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