【2】

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      「あの時の私の言葉を、ずっと気にしていたのか?」  頬に触れる手がスッと肌を滑り、顎を軽く掴むような仕草で、私の視線を上に向ける。 「すまなかった。酷い言葉を言ってしまったと思っているよ。私も動揺していたんだ。君を信じていたから、余計にね」 「わたくしは……陛下の信用を裏切る真似は、決してしていないと誓えます」 「そうだろうとも。本当にすまなかった。君を傷付けた私を、どうか許してくれないだろうか」 「許すだなんて……そう仰っていただけただけで充分です」 「君は優しいねレイノルド。君はまだ、私を愛してくれているだろうか」 「ずっとお慕いしております、陛下」 「私も愛しているよ、レイノルド」  ――なんて滑稽な。  こんなにも言葉だけが勝手に上滑りしていくのに、なぜ何も気付かないんだろう。 「嬉しゅうございます……やっと、報われた想いがいたします」  可笑しくて涙が止まらない。  なんで涙が、こんなにも満面の笑顔に似合うのだろう。 「ああ、泣かないでおくれレイノルド」  そして簡単に騙される。――本当にチョロイな。  感極まったように見せるためか、慌てたような仕草で陛下が私の身体を抱き寄せる。  もちろん私も、仕方なくその背中に腕を回した。 「本当は、君をずっと私の側に置いておきたい」  ――嘘を吐け。とっとと目の届かないところにでも放り出したいくせに。 「だが、信頼している君にしか頼めないことがある」  ――取ってつけたような口実だな。 「だから君自身に、カンザリアへ行って欲しいんだよ」  ――そうまでして私に、今さら何を望む?  ゆっくりと、新王陛下が私から身体を離した。  すぐ近い位置から、まさに見据えるように陛下が私の視線を捕らえる。  そうしてから、重々しく口を開いた。 「レイノルド、君は……私が父を殺したと思っているか……?」  ――『せっかく忠告してあげたのに……』  耳の奥、目の前に立つこの男から言われた言葉が、禍々しく甦る。  前王陛下が亡くなった、あの日。  擦れ違い様、誰に気付かれることもなく私にしか聞こえない声で、  それを、この男から囁かれた。  目の前に立つ、かつては王太子だった、この新王に―――。 『せっかく忠告してあげたのに……毒見はしなかったのか?』
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