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「わたくしは、これまで前陛下にお仕えすることで、この国の行く末を想い、宰相としての職務を果たすべく必死に努めてまいりました」 「ああ、君の働きは存分にわかっているよ」 「それも全て、次代の国の――あなた様が引き継ぐべき、この国のためにこそです。そのために、人材の育成にも心を砕いてまいりました。特に、わたくしの補佐であった秘書官たちは皆、有能な者ばかりでございます。お側に仕えることの叶わぬわたくしの代わりに、是非とも新たな宰相のために使わせてあげてくださいませ。きっとお役に立てることと存じます」  心配だった、かつての部下たちの処遇。私付きだった所為で、あのように有能な者たちが閑職に追いやられていたら忍びないと、隠棲生活の中でも、それだけは気がかりであったのだ。放っておいても勝手に出世できるだろうアレクとは違って、彼らは何の後ろ盾も持たない平民出身者ばかりなのだから。  こう言っておくことで、彼らの職が奪われることを防げるならいいが……今の私には、これ以上のことは出来そうもない。  その胸の上に、しなだれかかるように凭れながら、再度の口付けから逃れるべく視線を外した。 「わたくしの全ては、新たな王と新たな国のためにこそ、役立てていただきたいのです―――」  だからお聞かせください、と、そのままの姿勢から、呟くように私は続けた。 「陛下は……カンザリアで何をせよと、わたくしに御望みでいらっしゃるのでしょうか……?」
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