【2】

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      「私は、カンザリア要塞島に総督として赴任することになった」  告げた私を見つめたシャルハの瞳が、驚いたように見開かれた。 「着任すれば、解任されるまで島から出ることは出来なくなる。そうなる前に、シャルハ、おまえとゆっくり話をしたかった」  葡萄酒を満たした杯を傾けながら、しばしシャルハの返答を待つ。  今は、彼を部屋に招き入れ、二人きり、向かい合って杯を交わしていた。  シャルハに付き従ってきた従者は、ジークに対応を任せた。予め、こちらから呼ばない限り、この部屋には誰も近寄らせないように伝えてある。  マルナラには三日間滞在し、その後、私だけがカンザリアに渡る予定だ。ジークは王都に戻ってもらい、私の留守の間の屋敷や領地の管理など、当主としての雑事すべてを任せることになっている。  まだ目の前の杯には手を触れず、シャルハが唸るように「そうか」と低く呟いた。 「あのクセ者陛下め、随分非道な真似をしてくれるじゃないか」  この国の者ではないとはいえ、シャルハもカンザリア総督職が体のいい左遷先であることを知っていたとみえる。 「あんな島に飛ばされる何を、レイがしたというんだ」  苛々としたように卓上を小刻みに叩く彼の指を眺めながら、「もう決まったことだ」と、あくまでも静かに私は応えた。 「その命を受け入れたからこそ、私は今、ここに居る」 「この国に来ても、もう君に会えないなんて……よりにもよって、私の国から最も近い場所に居るというのに……!」  こんなの納得がいかない、と、握られた拳が音を立てて卓上に叩き付けられる。  おもむろに私は、椅子から立ち上がっていた。  そのまま、苛々と座る彼の傍らへと、歩みを進める。  こちらを向いた彼の眼前に立ち、見上げてきたその瞳を見下ろして、叩き付けられたまま卓上にある拳の上に、そっと自分の片手を添えた。
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