【2】

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「私のために怒ってくれる、その気持ちはとても嬉しいと思う」 「レイ……?」 「しかし、今はそんなことどうでもいい。そんな話がしたくて、おまえを呼んだわけじゃない」  言いながら、もう片方の手を、座るシャルハの肩に載せ、そこに軽く体重をかけるようにして腰を屈める。  視線を合わせたまま、少しずつ顔を近付ける。――まるで、これからキスでもするように。  だが、触れ合えぬ距離を保ったまま、私は動きを止めた。  訝しげな声で再び私を呼びかけたシャルハの声を、遮るようにして私は、その言葉を口にした。 「昔、おまえがくれた言葉……それはまだ、有効か?」 「え……?」 「おまえの手を取れば、私の望みを叶えてくれる、と……私を愛していると言った、その気持ちは、まだおまえの中にあるか?」 「レイ、それは……!」  言いかけたシャルハを見止めて、咄嗟に私は身体を起こした。  彼に触れていた両手を放し、一歩、後ろへ退いて少しだけ距離を取る。  そうしながら、出しかけた彼の言葉を塞ぐようにして、更に言葉を続けた。 「でも残念ながら、私はカンザリアへ行かなければならない身だ、国に帰るおまえに付いていくことは出来ない。――それに……知っているだろう? 私の心は全て、亡き陛下に捧げてしまった。気持ちをあげることも出来ない。おまえのくれる想いに報いてやることが出来ない」 「レイ……」 「私が、おまえにあげられるものといったら……もう、この身体だけだ」  そこで一旦言葉を切ると、おもむろに手を伸ばし、卓上のシャルハの杯を手に取った。  口許に運び、その中身を一口だけ含む。  ――必要なのは、少しだけ……そう、ほんの少しだけでいい。  それを、シャルハの唇へ口移しに流し込んだ。  驚いたように咄嗟に引かれた頭を、こちらから逆に引き寄せて、そのまま彼の口内に舌を這わせる。  シャルハの喉が鳴り、流し込まれた液体が嚥下されたのがわかった。  少しの間だけ、舌同士が触れ合う感触を楽しむ。  しかし、彼の舌がそれに応えようと、逆に私を絡め取ろうとしてくるのが、わかったと同時、身を引いて唇を離していた。  とても近い距離から彼の男らしい美貌を見下ろし、そして告げる。
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