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「私のために怒ってくれる、その気持ちはとても嬉しいと思う」
「レイ……?」
「しかし、今はそんなことどうでもいい。そんな話がしたくて、おまえを呼んだわけじゃない」
言いながら、もう片方の手を、座るシャルハの肩に載せ、そこに軽く体重をかけるようにして腰を屈める。
視線を合わせたまま、少しずつ顔を近付ける。――まるで、これからキスでもするように。
だが、触れ合えぬ距離を保ったまま、私は動きを止めた。
訝しげな声で再び私を呼びかけたシャルハの声を、遮るようにして私は、その言葉を口にした。
「昔、おまえがくれた言葉……それはまだ、有効か?」
「え……?」
「おまえの手を取れば、私の望みを叶えてくれる、と……私を愛していると言った、その気持ちは、まだおまえの中にあるか?」
「レイ、それは……!」
言いかけたシャルハを見止めて、咄嗟に私は身体を起こした。
彼に触れていた両手を放し、一歩、後ろへ退いて少しだけ距離を取る。
そうしながら、出しかけた彼の言葉を塞ぐようにして、更に言葉を続けた。
「でも残念ながら、私はカンザリアへ行かなければならない身だ、国に帰るおまえに付いていくことは出来ない。――それに……知っているだろう? 私の心は全て、亡き陛下に捧げてしまった。気持ちをあげることも出来ない。おまえのくれる想いに報いてやることが出来ない」
「レイ……」
「私が、おまえにあげられるものといったら……もう、この身体だけだ」
そこで一旦言葉を切ると、おもむろに手を伸ばし、卓上のシャルハの杯を手に取った。
口許に運び、その中身を一口だけ含む。
――必要なのは、少しだけ……そう、ほんの少しだけでいい。
それを、シャルハの唇へ口移しに流し込んだ。
驚いたように咄嗟に引かれた頭を、こちらから逆に引き寄せて、そのまま彼の口内に舌を這わせる。
シャルハの喉が鳴り、流し込まれた液体が嚥下されたのがわかった。
少しの間だけ、舌同士が触れ合う感触を楽しむ。
しかし、彼の舌がそれに応えようと、逆に私を絡め取ろうとしてくるのが、わかったと同時、身を引いて唇を離していた。
とても近い距離から彼の男らしい美貌を見下ろし、そして告げる。
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