【2】

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「おまえが、まだ私を愛していると、私の望みを叶えてくれると、言ってくれるのなら……こんな薄汚れた身体で申し訳ないが、それくらい幾らでもくれてやる」 「…………」 「ああ、あと、これがあるか……」  頬にかかる髪の一筋に気付き、指を絡める。 「そういえばシャルハ、おまえは私の髪が好きだったよな。いつも触っては口付けていた」  おもむろに流していた髪を一つに括るや、忍ばせていた懐剣を取り出して、根元からバッサリ切り落とした。 「何をっ……!」  止めようとしたのか伸ばされたシャルハの手が、間に合わず、行き場を失くしたように空で止まる。 「何をやっているんだ、レイ……!」  呆然としたように、洩れる言葉。 「貴族のくせに、髪を切るなど……!」  シャルハの言う通り。――この国では、長い髪こそ貴族の象徴だった。  背中まで長く伸ばされた髪を、首から上の高い位置で結い上げるのが女性、男性は、首から下の位置で結うか、結わずに流すのが普通だった。  いずれにせよ、長い髪が見苦しくならない程度には行き届いた手入れを常に出来るという、つまりは財力の象徴であったのだ。 「そんなもの……王宮を追われた今の私には、もはや不要のものだ。カンザリアでは、貴族である証など、何の意味も持たない」  カンザリアは要塞島、そこに居るのは軍人ばかりだ。短髪が当たり前であるその場所で、わざわざ長髪でいる必要もないだろう。  握り締めた髪を、取り出した懐紙に挟み込むと、そして卓上に置いた。――シャルハの前に。 「ならば、せめてこの髪だけでも、おまえと共に連れて行ってくれればいい。共に行くことの叶わない私の代わりに」  こんなにも髪をばっさり切り落とす貴族など、国中どこを探しても他にいないだろう。――それほどの覚悟なのだと、伝わってくれたらよいのだけれど。  そして言外に、おまえの求愛には応えることが出来ないのだ、と……シャルハにとって、それを残酷なまでに伝えられたに等しかったかもしれない。  よほどの衝撃だったとみえて、目を瞠ったまま何も言わない彼の唇に、そっと軽いキスを落とす。 「今の私では……もう、そんな気には、なれないか……?」  無言でこちらを見つめてくるだけのシャルハに、そう言って私は曖昧に微笑みかけた。
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