【2】

84/88
前へ
/167ページ
次へ
       ――それならそれで仕方ない。  気持ちの裏側では、こんなこと上手くいきっこないと、もう半分以上諦めている部分があった。  こんなにも利己的であさましい自分なぞ、撥ねつけてほしいという想いもあった。  形振り構わず、シャルハを利用してまでも、自身の望みを叶えたい、という欲望は何よりも強く在るけれど……実際に彼を目の前にしたら、その気持ちさえ隠れてしまうくらいには、私のシャルハに対する好意は大きかったらしい。  彼の出方次第で、自分の身の振り方を決めるつもりでいた。  ――これも、いわば“賭け”だったのだ。 「まさかレイに誘惑される日がくるとは、思いもしなかったな……」  ゆっくりとシャルハが口を開いた。 「お互い、学生の頃とは変わってしまったな」 「昔の私の方がよかったか?」 「そうだな……あの頃の君は、決して誰に媚びることもなく、そして絶対に折れなかった。どこまでも気高くて、美しくて……そんな君だから惹かれた」 「そうか……今の私とは、まさに正反対だ」  ――私は“賭け”に負けたのか。  なのに、どことなくホッとした気分にもなって、「では仕方ない」と、彼の身体から自分を離そうとした。  少しだけ力を籠めて、彼の肩に置いた両手を支えに身体を起こそうとして、 「え……?」  途端、その身体ごと引き戻された。  がっしりとした彼の腕が私の身体を抱き寄せた――と認識した途端、唇が奪われた。  すかさずシャルハの舌が入り込み、深く熱く、私の口内を嬲る。そのあまりの激しさに息苦しくさえなる。 「あ、シャルハ、やめっ、んっ……!」  思わず逃れようとしたが、彼の唇が執拗に追いかけてきては放さない。  息苦しさと同時にもたらされる、あまりの気持ちのよさに、だんだんと私の抗う力が弱くなる。頭がボーッとしてくるようで、何も考えられなくなりそうだ。  ――やばい……ひょっとして、効いてきたか……?
/167ページ

最初のコメントを投稿しよう!

159人が本棚に入れています
本棚に追加