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――それならそれで仕方ない。
気持ちの裏側では、こんなこと上手くいきっこないと、もう半分以上諦めている部分があった。
こんなにも利己的であさましい自分なぞ、撥ねつけてほしいという想いもあった。
形振り構わず、シャルハを利用してまでも、自身の望みを叶えたい、という欲望は何よりも強く在るけれど……実際に彼を目の前にしたら、その気持ちさえ隠れてしまうくらいには、私のシャルハに対する好意は大きかったらしい。
彼の出方次第で、自分の身の振り方を決めるつもりでいた。
――これも、いわば“賭け”だったのだ。
「まさかレイに誘惑される日がくるとは、思いもしなかったな……」
ゆっくりとシャルハが口を開いた。
「お互い、学生の頃とは変わってしまったな」
「昔の私の方がよかったか?」
「そうだな……あの頃の君は、決して誰に媚びることもなく、そして絶対に折れなかった。どこまでも気高くて、美しくて……そんな君だから惹かれた」
「そうか……今の私とは、まさに正反対だ」
――私は“賭け”に負けたのか。
なのに、どことなくホッとした気分にもなって、「では仕方ない」と、彼の身体から自分を離そうとした。
少しだけ力を籠めて、彼の肩に置いた両手を支えに身体を起こそうとして、
「え……?」
途端、その身体ごと引き戻された。
がっしりとした彼の腕が私の身体を抱き寄せた――と認識した途端、唇が奪われた。
すかさずシャルハの舌が入り込み、深く熱く、私の口内を嬲る。そのあまりの激しさに息苦しくさえなる。
「あ、シャルハ、やめっ、んっ……!」
思わず逃れようとしたが、彼の唇が執拗に追いかけてきては放さない。
息苦しさと同時にもたらされる、あまりの気持ちのよさに、だんだんと私の抗う力が弱くなる。頭がボーッとしてくるようで、何も考えられなくなりそうだ。
――やばい……ひょっとして、効いてきたか……?
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