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「ほらレイ、君だってもう……」  言いながら、そこに自分のそれを押し付けてくる。  当然のことながら、シャルハのそこも固く大きく膨らんでいた。  布地ごしに互いのものを擦り合わされて、その気持ちよさともどかしさで、思わず喉の奥から快感の喘ぎが洩れる。 「すぐに、もっと気持ちよくしてあげるから」  そして彼の手が私のベルトの留め具にかかったところで、快感に浸りかけていた頭がハッと我に返り、咄嗟にその手を掴んでいた。 「だめだ、シャルハ!」  掴むと同時に、すかさず腰を引いて身を起こす。  近くから彼を睨むように見つめて、更に私は言い募る。 「まだ、だめだ。そんな口約束だけでは、この身体はあげられない」 「レイ……」 「それに身体を繋いだら、もう後戻りは出来ないぞ。それが、私とおまえとの“契約”になるのだから。たとえおまえが嫌だと言っても、もう拒否権は無い。どんな無理を押し通してでも、こちらの望みを叶えてもらう」 「――じゃあ、どうすればいい?」  キスが出来そうなほどに更に顔を近付けて、シャルハは言った。 「どうすれば君は、私の言葉を信じて、私を受け入れてくれるんだ?」 「では、名に誓え」  告げたと同時、シャルハが絶句して目を瞠った。  それを見止めた上で、更に私は言葉を継ぐ。 「おまえの真の名にかけて、それを誓って欲しい」  ユリサナの皇族は、決して余人に真名を明かしてはならない。――それは常識であり、絶対の掟だった。  真名を知られるということは、相手に隷属するにも等しいことだからだと、かつてシャルハが教えてくれた。  だから皇族は、真名を秘し、字名だけを名乗る。 『シャルハ』の名も、彼の字名だ。  彼の真名を知るのは、名付けた両親のみ。  真名を明かし、その名にかける誓いは、つまり肉親との繋がりほどに強く抗えない制約となるに等しい。  本来なら、それは彼の迎えるべき正妻となる女性へ、永遠の愛と共に捧げられるものだろうに……それを今、私は彼に強いているのだ。
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