【2】

87/88
前へ
/167ページ
次へ
 それほどまでに絶対的に、聞いたからには確実に叶えて貰わなければならない望み。  そのリスクを、そして覚悟を、彼にも背負って貰わなければならない。 「――レイ……君は一体、何を企んでいるんだ……?」  鬼気迫るかの如き私の真剣な表情に、ようやく徒事ではないと覚ってくれたらしい、少しだけ眉根を寄せてシャルハが訊いた。 「そうまでして叶えたい君の望みとやらは、一体、何だ……?」 「私の望み、それは―――」  まるで内緒話を語るかのように、シャルハの耳元で、それを囁く。  途端、弾かれたように彼は私を振り返った。 「本気か……?」 「ああ、いたって本気だ。それ以上の望みなど、他に無い」  どことなく呆然としたように私を見つめたまま、シャルハが黙り込んだ。  私を見ているようで、実はどこも見ていないだろうことがわかる。そうしながら、頭の中で考えているに違いない。――私の申し出を飲むか否か、どちらに己の利があるか。  彼を見つめたまま、私も黙って返答を待つ。  しかし、一向に聞こえてこないそれに、痺れを切らして思わず、ふっと軽く笑みが洩れた。 「――馬鹿なことを言っていると、自分でもわかってるんだ……」  視線を伏せて呟く。 「こんな汚れた私ごときの身体では、到底釣り合わない大それた望みだということも、わかってる……」  ただ、それでもシャルハに縋るしかなかったのだ。  彼を利用することこそが最も早道である、――と。 「おまえが諾と言わなければ、私の望みなど、ここで潰えるだけのもの。――いいんだぞシャルハ、断っても。今ならば、まだ引き返せる」 「…………」 「そうか……愚問だったな、そんなこと」  迷いが生まれた時点で、もう答えなどわかりきっていたことだ。  私に、それだけの価値など無い。  彼にとって――彼が受け継ぐべきユリサナ帝国にとって。  最初から、わかりきっていたことだ。 「見苦しい真似をして、すまなかった」  言って、そのまま身体の向きを変えて、寝台から降りようとした。  その身体を、ふいにシャルハが引き倒した。 「え……?」
/167ページ

最初のコメントを投稿しよう!

159人が本棚に入れています
本棚に追加