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ああこいつもかと、少なからず失望した。こいつも私を抱きたいだけの男か、と。
それだけに、知らず知らず彼に対する拒絶が酷くなったことも、自分でも気が付いていた。
こんなのは八つ当たりだ、と……彼への申し訳ない想いを抱きながら、それでも精一杯の虚勢で彼に相対することしか、私には出来なかった。
張り巡らせた“柵”は、ますます高く頑丈になっていくだけのように思われた。
しかしトゥーリは、それを簡単に飛び越えてしまったのだ。
気が付けば、いつの間にか自然に“柵”の内側に居た。
常に私の傍らに寄り添ってくれていた。
『俺は、あなたの力になりたい――あなたの信頼を得たいんです』
その言葉ひとつで、彼は私の内側に、するりと入り込んでしまったのだろう。
『俺は、総督にとっての絶対の味方でいます。いつでも、どんな時も』
その言葉に嘘は無かった。
私のために、いつも心を砕いて仕えてくれた。
勿論、欲望のままに私を傷付けるような真似に及ぶことなど、絶対にしようとはしなかった。――それが、瞳の色に見え隠れしているのにも関わらず、だ。
自分の欲など当然のように押し殺して、彼は常に献身的なまでに私の側に在ろうとしてくれた。
そして彼は、思いのほか有能だったのだ。
騎士の資格まで得ているくらいだ、もとより剣術の腕は申し分ない。なにせ、近衛騎士の腕など信用していない、多少は覚えのある私でさえ、彼には全く歯が立たなかったのだから。
最初は、私から一方的に仕掛けた殺し合い…のような場だったこともあり、ルールも何も度外視され、ただ生きるか死ぬかという瀬戸際で戦っていたがゆえに、その不意を突かれて自分は負けたのだと思っていた。しかし、ちゃんとルールに則った勝負を挑んでも勝てなかった。一度だけじゃない、何度やっても同じだったのだ。
――ここまで歯が立たなかったのなんて、アレク以来だ。
一度目は、第三者を審判に立てて衆人環視のもとで正々堂々と勝負した挙句に負けた。二度目以降は、見世物にされるのに嫌気がさして、二人きりで遠駆けに出たついでに勝負を挑んで、ことごとく負けた。
何をやっても勝てないことで不貞腐れた私に、『当たり前です』と、ようやく彼は教えてくれたのだ。
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